ラトルのベートーヴェン・ツィクルス第3弾

ラトルはベートーヴェンの交響曲の演奏で定評がありますが、交響曲第6番《田園》は、以前から十八番としています。田園の情景を描く発想はバロック時代より存在しますが、ベートーヴェンがここで目指したのはそうした定型化された自然の表現ではなく、よりロマンティックなものに近づいたもの。しかし過渡期の性格を備えているため、古楽的なアプローチも要求します。ラトルはその両方のバランスを完璧に図った演奏を行ってきましたが、今回も瞠目すべき出来を示しています。前半の曲目は、交響曲第8番です。

ベートーヴェンや疾風怒濤期の詩人が生きた時代、彼らにとって自然は文明と象徴的に対立するものとして内なる平和の状態と結びついていました。《田園》の標題で名高い交響曲第6番にも、そのような思想を明確に感じ取ることができます。「田舎への到着」「小川のほとりの情景」「田舎の人びとの楽しい集い」といった標題に現われているように、ベートーヴェンはのどかで快活さに満ちた牧歌的な風景を描きましたが、彼自身は「絵画描写というよりも感情の表出」と明確に語っています。この田園交響曲の一つのモデルになったのが、シュトゥットガルトの作曲家、オルガン奏者のユスティン・ハインリヒ・クネヒトの交響曲《自然の音楽的描写》(1782/83)と言われています。ベートーヴェンが人間を調和的に結びつけるより高度な世界秩序のシンボルとして《田園》を理解していたのは間違いありません。

前半に演奏される交響曲第8番は、しばしば「陽気」「ユーモア」といった言葉で示される愛すべき作品です。アントン・シンドラーの伝承によると、第2楽章の旋律はメトロノームを考案したメルツェルにベートーヴェンが1812年に贈ったいわゆる「メルツェル・カノン」に基づくと言われています。作曲家のルイ・シュポーアは、フィナーレでの急激なアイデアの変化を差して「会話の途中で誰かが舌を突き出すかのようだ」と感じ、音楽学者のコンスタンティン・フロロスはやはりフィナーレを「ベルリオーズ以前の時代、『予測不可』の芸術の輝かしい例」と評しています。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル

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アーティスト

サー・サイモン・ラトル 首席指揮者 (在任期間 2002-2018)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 作曲

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